コロッケの歴史と日本における発展

料理
コロッケは庶民に愛される食べ物として知られ、その起源は多くの説がありますが、明確な答えを出すのは困難です。
特に世界各地にその原型が存在するため、一つの起源を特定することはほぼ不可能です。
そこで、この記事では特に「日本のコロッケ」の発展に焦点を当てて考えていこうと思います。

日本人のコロッケに対する誤解!?

日本におけるコロッケは、フランスの「croquette」やオランダの「kroket」から派生したとされ、これらが日本に伝わり「コロッケ」として親しまれるようになりました。
日本でのコロッケは、明治時代からレストランで提供され、早くも洋食の一部として定着していました。
しかし、どの国のどの料理が直接の影響を与えたのかについては議論があり、それが現在日本で広く親しまれているコロッケの形成にどう影響したかは興味深い問題です。
日本で一般的なコロッケといえば、まずじゃがいもコロッケを思い浮かべる人が多いでしょう。
次によく知られているのがカニクリームコロッケです。これらのコロッケは、日本の食生活に深く根付いており、コンビニ等でも手軽に購入できます。
ただし、じゃがいもコロッケとクリームコロッケは、その製法や特性が異なるため、異なるものとして捉える人も少なくありません。
クリームコロッケは、通常西洋式コロッケとされ、じゃがいもをクリームで代用したものが日本独自のバリエーションとされがちです。
しかし、じゃがいもを使ったコロッケも西洋には古くから存在しています。

じゃがいもだけじゃない!西洋で進化した多彩なコロッケの歴史とバリエーション

フランスでは「Croquettes de Pommes de terre」として知られるこの料理は、1903年に発行されたエスコフィエ「Le Guide Culinaire」にも記載されており、主に付け合わせとして提供されます。
その製法は、茹でて潰したじゃがいもにバター、塩コショウ、スパイス、卵を混ぜ合わせて形成し、パン粉をまぶして高温で揚げるというものです。
時には生クリームを加えることもあり、基本的にはマッシュポテトを揚げたような料理と言えます。
イギリスでは昔からじゃがいものコロッケが一般的であり、揚げ物料理としても知られています。
1861年にイザベラ・ビートンによって発行された「The Book of Household Management」には、じゃがいもや米を使った「Croquette」という料理が記載されています。
この料理書は日本でも『ビートン夫人の家政読本』として知られ、多くのレシピが収録されていることで有名です。
英語版のウィキペディアでは、「Croquette」の項に、主な材料としてマッシュポテトや挽肉、魚介、野菜などが混ぜられ、ベシャメルソースやブラウンソースと合わせて使用されることが述べられています。
イギリスでは現在でも、スーパーマーケットで一般的に見られる冷凍または冷蔵のコロッケは、典型的にはじゃがいもを中身として使っています。
このように、イギリスでのコロッケは、今日もなお庶民に愛されている伝統的な料理です。
じゃがいもを使ったコロッケは日本独自の発明ではなく、西洋においても長い歴史を持つ一般的な料理です。
特にフランスではコロッケの種類が多岐にわたり、カニ、エビ、チキン、さらにはフォアグラやトリュフを使うバリエーションも見られます。
これらの具材にマッシュルームやタマネギを加え、様々なソースを用いてアパレイユ(具材が混ぜ合わされた塊)を作ります。
作られたタネはベシャメルソースでクリームコロッケとして仕上げたり、ドミグラスソースを使用したりして、最終的には衣をつけて揚げたりオーブンで焼いたりすることで完成します。

コロッケの起源と日本への影響

コロッケの起源については、多くの議論が存在しますが、特にイギリスがその発祥地ではないかと考えられています。
日本は1854年の開国後、西洋文化を急速に取り入れましたが、特にイギリスの影響が顕著でした。当時、日本ではイギリス人が最も多く、多くの洋食コックがイギリス系であったため、食文化にも大きな影響を与えました。
公式な西洋料理のスタンダードとしてはフランス料理がありますが、日本の洋食初期においてはイギリスの影響が強かったことは、ビーフシチューなどの料理が今もなお日本の洋食メニューの定番として存在することからも明らかです。
辻調理師専門学校の創立者である辻静雄も、日本にフランス料理が紹介された当初はイギリス風の料理が多かったと述べており、これは当時のイギリスの国力がフランスよりも強かったためと説明しています。
イギリスではじゃがいもが非常に一般的な食材として広く用いられていました。
アイリッシュ・シチューやホット・ポット、フィッシュ&チップスと同じように、じゃがいもを使った料理はイギリスで広く普及しています。
このため、じゃがいもコロッケがイギリスから日本に伝わったのは自然な流れと言えます。
開国後、イギリスから来たコックが日本でじゃがいもコロッケを教えた可能性が高く、これが日本におけるじゃがいもコロッケの起源とされています。
フランスではコロッケがオーブンで焼かれることが多いのに対し、イギリスでは油で揚げる方法が一般的です。
これが日本のフライ式コロッケの調理法に影響を与えたと考えられます。
また、「カツ」に関しても、元々は西洋で焼かれていたカツレツが日本で揚げるスタイルに変わった背景には、イギリスの影響も考慮されるべきかもしれません。
日本でのカツの発展には、かつての煉瓦亭がてんぷらをヒントにして試行錯誤した結果がありますが、その過程でイギリスの食文化の影響も受けていた可能性があると言えるでしょう。

じゃがいもコロッケの軌跡―明治の高級品から日本の大衆料理へ

明治時代の日本の料理書には、じゃがいもで作るコロッケとクリームを使用するフランスのクロケットを区別して記述しているものが見られます。
この区別は、イギリス経由でじゃがいものコロッケが、フランスからはクリームコロッケが伝わったことに由来すると考えられます。
当時の日本人がこれらを異なる料理と捉え、「仏蘭西コロッケ」としてクリームコロッケを特別視した可能性があります。
現在では、じゃがいものコロッケは日本の食文化に深く根付いており、「イモコロッケ」が西洋料理とは思えないほど大衆化しています。
それにもかかわらず、じゃがいものコロッケは開国初期には高級品であり、庶民的な食材になったのは大正末期になってからです。
この歴史的背景を考えると、明治時代に「クリーム・クロケットを安価なじゃがいもで代用した」という見方は、現代の視点からの誤解である可能性が高いです。
西洋から伝わったじゃがいものコロッケが日本で自然に受け入れられたと考える方が自然な流れと言えるでしょう。
日本におけるじゃがいもの普及は大正時代に顕著になりましたが、その前の明治時代には、じゃがいもはまだ一部の富裕層や外国人が利用する高級食材で、広くは用いられていませんでした。
第一次世界大戦中の大正三年から始まった物資の特需により、じゃがいもの生産が増加し、戦後の大正七年には市場に大量に出回り、価格が暴落。
これがきっかけで、じゃがいもが大衆的な食材として広まり始めました。

進化する日本のコロッケ文化―生パン粉がもたらした独自の風味と多彩なバリエーション

コロッケは、西洋から伝わった料理でありながら、日本で独自の進化を遂げています。
例えば、高級な「伊勢海老のクリームコロッケ」から手頃な「イモコロッケ」まで、多様なバリエーションが存在します。
また、「メンチカツ」もコロッケから派生した日本独自の料理です。
日本でのコロッケとパン粉の使用には特徴があります。
もともと西洋のパン粉は乾燥した細かいドライパン粉が一般的でしたが、日本では生パン粉が主流になっています。
生パン粉は、細かく砕かずに大粒で乾燥させないタイプのパン粉で、そのフレッシュな使い方が日本のカツやコロッケに独自の風味を加えています。
明治四十年には日本で初めてパン粉製造業者が登場しましたが、生パン粉の普及と使い方には一定の変遷があります。
かつては銀座の「煉瓦亭」が生パン粉を使い始めたとされ、これが日本のカツ料理に新たな風味をもたらしましたが、その詳細な歴史は不明です。
また、昔の洋食屋ではドライパン粉を使って細かくしたものを使用していたことが多く、パンクズを利用したり、裏漉し器で細かくしたりする手間をかけていました。
これらの技術も、日本の洋食文化の一端を示しています。

多様な形と進化を遂げた日本のコロッケ―生パン粉がもたらした新たな食感と伝統

かつての洋食屋で見られたコロッケは、現在のものとは異なり多様な形がありました。
例えば、クリームコロッケが勾玉型であったり、俵型のコロッケも一般的でした。
日本橋の老舗「たいめいけん」の創業者、茂出木心護氏が1973年に出版した『洋食や』では、パン粉についての詳細な説明があります。
書籍によると、生パン粉は新鮮な食パンを使い、裏漉しで粗くこすって作る方法と、細かく乾燥させた乾パン粉があり、これらが用途に応じて使い分けられていたことがわかります。
近年の日本では、生パン粉の使い方に変化が見られます。
乾燥させずにそのまま使用する、フワフワした本来の「生パン粉」が主流となりつつあります。
特に「神戸コロッケ」が流行した1990年代以降、粗い生パン粉が一般的になり、そのザクザクとした食感が人気を博しました。
これにより、フライもの全般において粗い生パン粉の使用が広まり、細かいドライパン粉を使用する店は減少しました。
この変化は、コロッケを含む日本の洋食がさらに独自の進化を遂げたことを示しています。
かつては高級な食材を使ったものから庶民的なものまで幅広く存在したコロッケですが、今やその味わいと食感の多様性により、和食の一部と言えるほど日本の食文化に溶け込んでいると言えるでしょう。
資生堂パーラー東洋軒のように、西洋の伝統的な製法を守り続けるコロッケは、日本で一般的な「コロッケ」という名前を持ちながら、その本質は細かく処理された衣をまとった正統派の西洋料理です。
これを日本全国に普及しているコロッケの一種と見做すことはできません。
考察すると、日本でコロッケが広く普及しているのは確かですが、それが日本固有の形を成したのは意外と近年のことです。
バリエーションが多く、外見のシンプルさからは想像もつかないほど奥深い料理であると言えるでしょう。

まとめ

日本におけるコロッケは、洋食の一部として受け入れられながらも、日本独自の進化を遂げてきました。
特にじゃがいもを使ったコロッケは、明治時代には高級品として扱われていましたが、次第に大衆化し、今では家庭料理やコンビニなどで手軽に楽しめる庶民的な料理となっています。
また、生パン粉の普及により、ザクザクとした食感が特徴的な日本独自のコロッケスタイルが確立されました。
こうして、コロッケは和食の一部としても親しまれる存在となっています。
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