ピラフを想起させると、多くの人が洋風のごはん料理を思い浮かべるでしょう。
しかし、ピラフの正式な調理法について詳しく知っている方は少ないかもしれません。
そこでこの記事では、ピラフの基本的な作り方や、リゾットやパエリアとの違いについて考えてみたいと思います。
ピラフの洋食屋スタイル
かつての日本の洋食屋や喫茶店には、ピラフが定番メニューとして並んでいました。
一部の店では、この料理を「洋風チャーハン」と表現し、炊きたてのご飯を洋風の味付けでフライパンで炒めて提供していたこともあります。
しかし、このような調理方法で作られるピラフは、日本独自のアレンジが加えられた「なんちゃってピラフ」であり、実は伝統的なピラフの調理法とは異なります。
ピラフの起源とトルコ料理
ピラフはトルコ発祥の料理で、「pilav」と呼ばれます。
かつてオスマン=トルコ帝国がヨーロッパに大きな影響を及ぼした時代、食文化も豊かに発展しました。
この国の歴史は、ローマ帝国を滅ぼし、ハンガリーやスペインといった国々との戦いに勝利するほどの強大な力を持っていました。
トルコのピラフは、生米と具材をオイルで炒め、その後出汁を加えて蓋をして炊き上げる方法で作られます。
この調理法はイタリアのリゾットに似ており、ピラフがイタリアに伝わってリゾットが生まれたとする説も存在します。
ピラフとリゾット、チャーハンの調理法と食感の違い
ピラフとリゾットは調理法において根本的な違いがあります。
ピラフは生の米を具材と一緒に炒め、その後出汁を加えて炊き上げ、パラパラとした仕上がりを目指します。
対照的にリゾットは、出汁とオイルを乳化させることで、汁気のあるおじやのような食感に仕上げます。
この違いは味わいと食感に大きな影響を与えます。
また、ピラフとチャーハンの違いについても注目されます。
チャーハンは既に炊いた米を炒めて味付けするのに対し、ピラフは生米から具材と一緒に調理し、炊き込むため、本質的には洋風の炊き込みご飯に近いと言えるでしょう。
このため、日本での表現として「洋風チャーハン」ではなく「洋風炊き込みご飯」と説明する方が適切です。
さらに、リゾットやピラフはフランス料理においても一般的な付け合わせであり、歴史的にも19世紀のエスコフィエのメニューにその名が見られます。
これはピラフとリゾットがヨーロッパ料理においても重要な位置を占めていることを示しています。
フランス料理のピラフとパエリアの調理法の比較
ピラフはフランス料理においても「Riz pilaf」または「Riz pilaw」として知られ、これはトルコ語の「pilav」から派生した名前です。
フランスのピラフの調理法では、米と具材を炒めた後、スープを加えて蓋をしてオーブンで炊き上げます。
この料理は水分がなくなり、表面が乾燥している状態で仕上げるのが特徴です。
一方、基本的なピラフは「バターライス」とも呼ばれ、タマネギと米をバターで炒め、ブイヨンで炊き上げます。
一方で、「パエリア」というスペインの有名な米料理は、すでに炊いた米に具材と出汁を加えて鍋で煮込んで完成させる料理です。
この方法は、生米から作るピラフやリゾットと異なり、日本の「おじや」に近い食感と調理法を持っています。この比較から、ピラフ、パエリア、リゾットはそれぞれ独自の特徴を持つことがわかります。
日本におけるピラフの進化
日本でピラフが洋風チャーハンとして認識されるようになった背景には、特定の理由が考えられます。
最初の理由は、ピラフの正式な調理法を知らずに外見だけを模倣して「ピラフ」と名付けたケースです。
特に料理の専門教育を受けていない人が喫茶店などを開業し、炊きたての白ごはんを洋風に味付けしてフライパンで炒めることで簡易的な「ピラフ」を提供していたのです。
このような場合、料理の本質よりも手軽さが優先された結果、独自の解釈が生まれました。
日本におけるピラフの認識は、特定の料理スタイルから大きく影響を受けています。
多くの家庭向け料理本では、チャーハンに似た手法でピラフのレシピを紹介していたため、多くの人々がその作り方に疑問を持たずに受け入れてきました。
また、レストランでの調理効率を考慮すると、リゾットや伝統的なピラフのように生米から調理する方法では、料理が完成するまでに20分以上要することが多く、これは料理を迅速に提供するためのレストラン運営には適していませんでした。
このため、炊きたてのご飯を使用して素早く仕上げる方法が好まれ、ピラフが洋風チャーハンとして日本で定着する背景となりました。
そのため、レストランにおいて、ピラフやリゾットを効率的に提供する方法として、これらの料理はしばしば事前に作り置きされることがあります。
注文が入ると、事前に準備されたピラフやリゾットを素早く温め直して提供するため、調理時間を大幅に短縮できます。
ただし、チキンやシーフードなどの具材は、注文があってから新鮮にソテーされるため、料理全体が完全な作り置きではなく、具材の鮮度を保つための工夫が施されています。
この方法により、レストランは効率的に運営され、顧客に迅速に食事を提供することが可能となっています。
レストランにおけるピラフの効率的な提供方法
レストランでは、多様なピラフメニューを迅速に提供するための一般的な手法として、事前に「バターライス」を作り置きしておくことがあります。
これは、ブイヨンとバターのみで調理されたプレーンなピラフで、オーダーが入ると具材をフライパンで炒め、すでに準備されているバターライスを加えてさらにフライパンで温めながら完成させます。
この方法により、カニピラフやチキンピラフなど、様々なバリエーションをメニューに加えることが可能です。
ただし、この調理プロセスは外から見ると、チャーハンを作っているように見えるかもしれません。
この効率的な調理手順が、忙しいレストランでのサービスの迅速化に貢献しています。
また、残った白飯を無駄にしないため、翌日に洋風の味付けを加えピラフとして提供する方法も、材料コストを抑えるためにレストランでよく採用されています。
このようにして調理されるピラフは、日本独自のアプローチで洋風のチャーハンとも呼べるような料理として確立しているかもしれません。
この手法は、意図的に行われるもので、日本の洋食文化の一環と見ることができます。
一部の日本のレストランでは、チャーハンを炊き込みご飯のように調理するスタイルも見られます。
通常、チャーハンは白米を使用し、調理中に味付けをする方法ですが、これだと料理の技術や味付けによる差が出やすくなります。
そこで、一部のチェーン店やラーメン店では、事前にだしと共にご飯を炊き、これに具材を炒めたものを加えて完成させる方法が取られています。
この手法だと、事実上「チャーハン風ピラフ」とも言える料理が完成します。
グルメ文化の変遷とピラフの誤解
平成時代に入ると、グルメブームが加速し、料理へのこだわりが増しました。
その影響で、料理の質は向上し、本格的な調理技術や調理器具が広まりました。
しかし、日本風のピラフが長く市民権を得ていたため、多くの人々が伝統的なピラフの本来の味を知らないままです。
今では、本格的でない調理法は評価が低くなる傾向にあり、インターネット上で辛辣な批評を受けることも珍しくありません。
本格的なピラフは、日本で親しまれているふっくらとしたご飯とは異なり、ポソポソとした食感が特徴です。
これは、使用されるお米の品種が異なるためで、ヨーロッパや東南アジアのお米は粘りが少なく、パラッとした状態で炊き上がります。
日本でこのスタイルのピラフを提供すると、「生煮え」とか「解凍が不十分」と誤解されることがあり、本来の調理法を守るかどうかは、調理者にとって難しい選択となることがあります。
ピラフが日本で「洋風チャーハン」として認識されるようになったのは、作業効率の向上や日本人の好みに合わせた食感を実現するためなど、一定の理由がありました。
これは単に日本人コックが本来のピラフを理解していなかったわけではなく、意図的にアレンジされた結果です。
しかし、これを「ニセモノ」と決めつける風潮には疑問を感じます。実際、パスタやリゾットを事前に茹で置く手法も、イタリアの一部の大衆食堂では珍しくなく、これを「日本式」と呼ぶのは誤解を招きやすいです。
かつて、日本人がミラノのトラットリアでリゾットを注文した際、わずか5分で提供されたことがあります。
これは生米から作る場合には不可能な速さですが、そのリゾットは非常に美味しかったと言われています。
同様に、日本でアレンジされた「洋風チャーハン」スタイルのピラフも、工夫次第で非常に美味しく作ることが可能です。
美味しさが保証されるなら、調理方法に固執する必要はないかもしれません。
結局のところ、料理の最終的な味が満足できるものであれば、その作り方については柔軟に考えても良いのではないかと思います。
まとめ
ピラフは、トルコ発祥の伝統的な炊き込みご飯料理でありながら、日本では「洋風チャーハン」として独自の進化を遂げました。
その背景には、料理の提供スピードや効率性、そして日本人の好みに合わせた工夫があります。
このため、日本のピラフはフライパンで炊きたてご飯を炒めて仕上げるスタイルが一般的に受け入れられています。
料理の本質を変えず、食文化に合わせて柔軟に変化してきた日本のピラフは、独自の味わいを持つ洋食として根付いているといえるでしょう。