ハンバーグの起源について

料理
ハンバーグという料理の起源は、具体的にはハッキリとしていません。
古くから、硬い肉や肉の切れ端を利用しやすくするために、挽肉として調理されてきました。
これにさまざまな調味料や他の食材を加えて風味を豊かにする手法は、古代の料理法として広く行われていたため、その発明者や具体的な発祥の地を特定することは難しいとされています。

ハンバーグの歴史はタルタルステーキが起源

日本ハンバーグ・ハンバーガー協会日本ハンバーグ協会のウェブサイトによると、ハンバーグの歴史はタルタルステーキが起源であるとされています。
この説はウィキペディアにも採用されていますが、この主張は具体的な証拠がなく、一般的な俗説とされています(2024年現在)。
多くのサイトがこのタルタルステーキ説を引用していますが、挽肉と調味料を混ぜて焼いた料理は古代から存在しており、形状や調理法が異なるこの料理をハンバーグの起源とすることには疑問が残ります。
さらに、日本で「卵を使うのは独自のスタイル」とされることがありますが、これも誤解であり、挽肉に卵やパン粉を混ぜて焼く料理は世界中で古くから行われており、日本独自の発明ではないとされています。

ハンバーグの名前の由来はドイツから

「ハンバーグ」という名前の由来は、比較的明確です。ハンバーグの名は、ドイツの都市ハンブルク(独: Hamburg)に由来しています。
ハンブルクはドイツ最大の工業都市で、労働者たちが安価な挽肉を工夫して食べる文化が広がっていました。
そのため、欧米では挽肉を固めて焼いた料理を「ハンブルク風」と呼ぶようになったとされています。
また、ソーセージが「フランクフルト」「ウィンナー」と呼ばれるのも、同じくドイツ語圏の都市名に由来します(フランクフルトはドイツの都市、ウィンナーはオーストリアの首都ウィーンから)。
ドイツでは挽肉料理が盛んで、牛肉の挽肉を使った「フリカデラ」「ハック・シュテーク」といった料理は、現在でも一般的に食されています。このスタイルはドイツ国内にとどまらず、ヨーロッパ各地で親しまれています。
ドイツの隣国であるベルギーやフランス北部でも、フリカデルと呼ばれる料理が広く知られています。
この料理はハンバーグのような大きな塊であったり、小さなミートボールやソーセージ形状のものもあるなど、さまざまな形態があります。
明治時代のフランス文学者、山本直文が記した『食味ノオト』によると、彼の若い頃の東京での洋食事情において「フリカデル」は「フーカーデン」という名前で呼ばれており、当時の日本では今よりも広く知られた料理だったと述べています。
日本では「Hamburg」と綴られることが多いハンバーグですが、「ハンバーガー」と聞くと多くの人がマクドナルドなどのファーストフードを連想するでしょう。
ただし、アメリカでは「Hamburger」と表記され、これは都市名の「Hamburg」から来ています。
アメリカのウィキペディアでは、「Hamburger」の項目で、その起源として「frikadeller」と記されています。
一方、日本のWikipediaをはじめ、多くの情報源がハンバーグの起源をタルタルステーキに求めますが、これは挽肉を用いる生食の料理で、韓国のユッケに近いです。
ヨーロッパにおいて古くから存在する挽肉を混ぜ物して焼いた料理と根本的に異なるタルタルステーキをハンバーグの起源とするのは、強引な理論と言えるかもしれません。

アメリカのハンバーグステーキの起源

ハンバーグステーキがアメリカで広まったのは、ドイツからの移民によるものとされています。
アメリカに住んだドイツ人が自国の伝統的な料理であるフリカデレを作り、これを「Hamburger」として提供し始めた背景には明確な記録は少ないですが、1873年にニューヨークでドイツ人のアウグスト・エルミッシュの店のメニューに既に登場していました。
また、1876年のフィラデルフィア博覧会でドイツの料理店がハンバーグを提供し、これが大変な人気を博し、アメリカ全土に広まるきっかけとなったと言われています。
また、アメリカでは「ソールズベリー・ステーキ」というハンバーグ類似の料理があります。
これは、19世紀中頃、ニューヨークの医師ジェームズ・ソールズベリーが名前の由来です。
ソールズベリー博士は、未十分に調理された牛挽肉による食中毒の問題を指摘し、牛挽肉を十分に焼くことを推奨しました。彼の提唱した調理法は医学書や料理書にも記載され、「ソールズベリー・ステーキ」として知られるようになりました。
1914年、第一次世界大戦が勃発し、アメリカでは敵国ドイツの都市名「ハンブルク」を冠した「Hamburger」を避ける動きがあり、その代替として「ソールズベリー・ステーキ」の名前が普及し始めました。

フランス料理の影響と日本のハンバーグ

日本でハンバーグが普及した経緯について、一般的にはアメリカからの影響とされることが多いですが、これは確証がありません。
より可能性が高いのは、明治時代にフランス料理の影響を受けているという説です。開国後、西洋料理としてフランス料理が日本に流入し、当時ヨーロッパで最も評価されていたのがフランス料理でした。
明治政府は公式の応接料理をフランス式に定め、横浜や神戸の開港地にある外国人ホテルのレストランもフランス式が基本でした。
日本の洋食に携わるコックたちは、洋食を学ぶ際にフランス料理の技法を身に付けることが一般的でした。
戦前の日本のレストランでは、イギリス人が多く居住していたためイギリス風の影響もありましたが、「フランス式」が主流で、多くの洋食がフランス料理を原点としています。この背景から、日本のハンバーグも古典フランス料理の影響を受けている可能性が高いと考えられます。
戦前の日本で洋食を学ぶコックたちが参考にしていたフランスの料理書、エスコフィエの『Le guide culinaire』とモンタニエ『Larousse gastronomique』には、それぞれ「ハンブルク風ビーフステーキ」(Beefsteak à la hambourgeoise)「ハンブルク風ビフテック」(Bifteck à la hambourgeoise)と記されたレシピが掲載されています。
これらの料理は、牛挽肉に玉ねぎ、卵、塩、コショウ、ナツメグを加え、混ぜて形を整えて焼く方法で作られます。
この記載から、フランス料理においても「ハンブルク風」と呼ばれる牛挽肉を使った料理が確立していたことがわかります。
また、『Le guide culinaire』には「Fricadelle」という料理の記述もあります。
これは、細かく刻んだ挽肉に牛乳に浸したパン粉、卵、炒めたタマネギ、塩、コショウ、ナツメグを混ぜて丸め、オーブンで焼くという方法で作られます。
これは、日本で広く知られている基本的なハンバーグレシピと非常に似ています。
インターネット上では「卵やパン粉を使うのは日本独自」という説がしばしば見られますが、このような料理書によれば、フランスでも同様の方法が古くから用いられていたことが分かります。
日本でハンバーグにナツメグを加えるのが一般的なのも、古典フランス料理の影響を受けていると考えられます。
また、アメリカで「ハンバーグ」という名前が挽肉を焼いた料理に使われるようになったのも、フランス料理の呼び名に影響された可能性があります。

フランス料理がルーツ?ハンバーグに隠された誤解と日本独自のアレンジ

日本においてハンバーグが独自の料理であるとの誤解が生じる背景には、フランス料理の影響が忘れ去られたことが挙げられます。
フランス由来の「Beefsteak à la hambourgeoise」「bifteck」は、現在のフランスではほとんど見られなくなった古い料理です。
一方で、アメリカではハンバーガーやハンバーグステーキが一般的で、こうした状況が日本の誤解を招いています。
さらに、現代の日本のハンバーグにはパン粉が使用されるのが一般的ですが、これはフランスやアメリカの現代の挽肉料理ではあまり見られない特徴です。
こうした違いから、ハンバーグがアメリカからの影響を受けたと誤解され、パン粉や卵を加えるアレンジが日本独自の発展と見なされがちです。
しかし、『月刊BOX』(ダイヤモンド社)1986年11月号に掲載された馬場久シェフのインタビューによると、戦前の横浜のホテルニューグランドで初代総料理長を務めたサリー・ワイル氏のメニューには、ハンブルク風ステーキがいくつか含まれていました。
これらのレシピにはパン粉が使用されていたとされ、馬場久シェフはワイル氏の教えを受けたことで知られています。
エスコフィエの料理書にも、牛挽肉にタマネギ、卵、パン粉を混ぜて焼くレシピが掲載されており、ワイル氏がエスコフィエの料理を得意としていたため、これらの情報が合致することは驚くべきことではありません。

日本式ハンバーグの誕生―戦前フレンチから受け継がれた工夫と独自の進化

戦前の日本のフレンチ・レストランでは、外国人コックが作るパン粉入りのハンバーグが一般的でした。
特に、当時のニューグランドホテルでは、主に外国人客を対象にしており、コスト削減のためにパン粉を使用していたとされています。
また、戦前に横浜の外国人ホテルで修業し、「天皇の料理番」として知られる斎藤文次郎氏は、自身の著書『フライパン一代』で、一流のホテルではハンバーグにパン粉を入れないと述べています。
これらの情報から、ハンバーグにパン粉を加えるか否かは、単に西洋式か日本式かというよりも、各料理人のスタイルや考え方に依存していたと考えられます。
しかし、ハンバーグの進化において、それを独自の料理スタイルとして発展させたのは日本のようです。
現代の日本のハンバーグは、かつてのものとは異なり、ほぼ日本固有の形式と言えるでしょう。
フランスで人気が衰えたハンバーグが、日本で今も広く愛されているのは、日本が元々肉を主食としない国だったからかもしれません。
欧米や中国のように、古くから肉料理を頻繁に食べる国では、特別な機会には牛肉や羊肉、鶏肉などの大きな塊の肉料理が「ごちそう」として扱われ、挽肉料理は比較的家庭的で安価な料理と見なされがちです。
アメリカにおいても、ハンバーガーやハンバーグステーキは大衆向けの食べ物であり、高級レストランではあまり見かけません。
挽肉料理では、ハンバーグステーキよりもミートローフの方がレストランのメニューで一般的です。
同様に、ベルギーやフランスのフリカデルも、レストランのメニューに載ることは少なく、主に家庭や大衆食堂で見られる料理です。

まとめ

日本においては、長い間、肉料理が高価なごちそうとされてきました。
そのため、挽肉料理であっても美味しく調理すれば、豪華な食事として評価される傾向にあります。
これがハンバーグが進化し続ける一因ではないかと考えられます。
現代の日本では、フレンチレストランの高級なメニューにはハンバーグが含まれていないことが多いですが、洋食レストランでは依然としてハンバーグは定番メニューとされています。
この傾向は今後も続くことが予想されます。
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