かつて「肌色」として親しまれていた色鉛筆やクレヨンが、気づけば違う名称に変わっていることに気づいたことはありますか?
幼い頃、絵を描くときに頻繁に使っていたあの色。現在では「うすだいだい」や「ペールオレンジ」として知られています。色そのものは変わっていないのに、なぜ名前だけが変わったのでしょうか?
この記事では、「肌色」の名称が変更された理由や、いつ頃からその動きが始まったのかを詳しく解説します。
そもそも「肌色」とは?過去の定義と問題点
①「肌色」の本来の意味とは?
かつて日本では、「肌色」は 薄い橙色(オレンジ系) のことを指していました。クレヨンや色鉛筆などでも、「肌色」という名称が一般的に使われていました。
しかし、この表現には 「特定の肌の色だけを標準とする」 という問題がありました。
② 「肌色=薄橙」だった背景
このような定義が生まれた背景には、日本国内の 多数派の肌の色が基準とされていた という歴史があります。日本人の多くは 黄みがかった肌色 をしているため、「肌色=薄橙(うすだいだい)」という認識が広まりました。
しかし、日本国内だけでなく、世界にはさまざまな肌の色を持つ人々がいる という事実を考えたとき、「肌色=薄橙」とするのは不適切であるという指摘が増えていきました。
2. 言い換えが進んだ背景と社会的な動き
① 多様性の尊重と人権意識の向上
現在、世界的に 「多様性(ダイバーシティ)」を尊重する考え方 が広まっています。
「肌色」という言葉を使うと、「肌の色は1種類しかない」という誤解を生む可能性があるため、より公平な表現に変えようとする動きが活発化しました。
例えば、海外では「肌色」という概念がなく、「ペールピーチ(Pale Peach)」「サンド(Sand)」「ブラウン(Brown)」など、具体的な色名が使われています。
② 国際的な動向と影響
このような考え方は、日本だけでなく 世界的なトレンド でもあります。
- アメリカやヨーロッパ では、1990年代以降、クレヨンや色鉛筆の「Flesh(肌色)」という表記が廃止され、より具体的な色名に変更されました。
- ファッション業界 でも、「ヌードカラー(Nude)」という表現が「ピンクベージュ」や「モカ」など、さまざまな肌の色に対応する名称へと変化しています。
- 化粧品業界 では、以前は「肌色=明るいベージュ系」が主流でしたが、現在では より幅広い肌色に対応したファンデーション が増えています。
「肌色」の言い換えにはどんなものがある?
現在、かつて「肌色」とされていた色には、主に以下のような呼び方が使われています。
- うすだいだい(薄橙)
- ペールオレンジ(pale orange)
- ベージュ(beige)
それぞれの色がどのような特徴を持ち、どのような背景で使われるようになったのか、詳しく見ていきましょう。
うすだいだい(薄橙)
「橙色(だいだいいろ)」は柑橘類の橙(だいだい)に由来する色で、黄色に赤を足した温かみのある色です。「うすだいだい」は、それを淡くした色で、かつての「肌色」とほぼ同じ色調です。
ペールオレンジ(pale orange)
英語で「pale」は「淡い」や「薄い」という意味を持ちます。「ペールオレンジ」は直訳すると「薄いオレンジ色」となり、「うすだいだい」とほぼ同じ色合いになります。特に、クレヨンや色鉛筆の名称として広く使われるようになりました。
ベージュ(beige)
フランス語が語源の「ベージュ」は、明るい茶色の一種で、染色されていない羊毛の色に近いとされています。アジア圏の人々の肌の色としても馴染みが深く、ファッションや化粧品の分野でも広く使われています。
日本語における「肌色」の呼び名の変遷
日本では、もともと「肌色」よりも「宍色(ししいろ)」という呼び名が使われていました。「宍色」は「肉色(にくいろ)」や「人色(ひといろ)」とも呼ばれ、食肉の色を指していた時代もあります。
仏教が普及し、肉食が禁止された時代を経て、「宍色」という言葉はあまり使われなくなり、「肌色」という表現が一般化しました。
なぜ「肌色」が言い換えられたのか?
かつての日本では、「肌色」と言えば明るいベージュや淡いオレンジが一般的なイメージでした。しかし、現代の日本にはさまざまな肌の色を持つ人々が暮らしており、「肌色=特定の色」とする考え方は、多様性を軽視していると捉えられる可能性があるのです。
こうした理由から、「肌色」という表現を避け、より客観的な色名に変更する動きが広まりました。
事実、現在販売されているクレヨンのセットには「肌色」という名称の色は存在しません。
クレヨンや色鉛筆における「肌色」の新たな名称
現在では、多くのメーカーが「肌色」という名称を廃止し、代わりに 「ペールオレンジ」 などの呼び方を採用しています。
この変更は、 多様な肌の色を持つ人々が共存する社会に対応するため であり、特定の肌色を「標準」とする考え方を改める動きの一環でもあります。
「肌色」の言い換えがもたらした影響とは?
肌色の呼び方の変更は、日本社会が多様性を尊重する方向に進んでいることを示しています。
この動きが始まったのは 1999年頃 で、クレヨンメーカーの ぺんてるが「肌色」を「ペールオレンジ」に変更 しました。続いて 2000年にはサクラクレパスが「うすだいだい」に変更 しています。
当初は「日本の文化としての肌色を残すべき」という意見もありましたが、時代の流れとともに、より多様性を意識した呼称へと変化していきました。
ちなみに、 JIS(日本産業企画) では、今も「肌色」という色名が登録されていますが、一般的な製品ではほぼ使用されていません。
化粧品業界などでの変化
「ベージュ」は、薄い茶色や黄味がかった明るい色を指し、化粧品の色名としても長く使われてきました。「ライトベージュ」や「ナチュラルベージュ」といった名称は、ファンデーションやパウダーなどの色選びでもおなじみです。
色鉛筆の「肌色」と「ベージュ」を並べて比べてみると、ベージュの方がやや黄色が強く、薄い茶色に近い印象を受けます。一方、従来の「肌色(うすだいだい)」は、オレンジに近い色調でした。
このように、「ベージュ」という名称を採用することで、より多様な肌の色を考慮した表現へと変化したのです。
教育現場での変化
特に 学校教育 では、児童が「肌色=薄橙」と誤認しないように、色の名称が見直されるようになりました。
例えば、小学校の図工の時間では、かつて「肌色」と呼ばれていた色鉛筆や絵の具が、「ライトオレンジ」「ピーチ」「ベージュ」などの名称に変更されています。
また、教師が児童に対して 「肌の色は一つではなく、人それぞれ違う」 ということを伝える機会も増えてきています。
英語では「肌色」をどう表現する?
英語でもかつて「flesh color(肉色)」という表現が使われていましたが、特定の人種の肌色を連想させるため、現在ではほとんど使用されません。
現在、肌の色を表現するときには、以下のような単語が使われます。
- peach(ピーチ)
- beige(ベージュ)
- tan(タン)
- brown(ブラウン)
これらの単語に「light(明るい)」や「dark(暗い)」といった言葉を組み合わせることで、さまざまな肌の色を表現できます。
特に英語圏では 肌の色に関する表現はセンシティブな話題 となるため、使い方には注意が必要です。
言い換えが進んだことによるメリット
「肌色」という言葉がなくなったことにより、さまざまなメリットが生まれています。
① 誰もが自分の肌色を表現しやすくなった
「肌色」という固定概念がなくなったことで、自分の肌に合った色を自由に選ぶことができる ようになりました。
特に、化粧品やファッション業界 では、「肌色=薄橙」に限定せず、より多くの肌色に対応したカラーバリエーションが用意されるようになりました。
② 子どもの教育において公平性が保たれる
子どもたちは、絵を描くときに 「肌色」という固定概念にとらわれず、自由に色を選ぶ ことができます。
例えば、絵を描く際に「自分の肌の色に合う色を選ぼう」と考えたり、「さまざまな肌の色があることを知る機会になる」など、多様性を尊重する意識を育てる ことにもつながります。
③ 商品名の表記がより明確になった
色鉛筆やクレヨン、化粧品などのカラー名が「ペールオレンジ」「ライトベージュ」などに変更されたことで、より正確な色のニュアンスを伝えられる ようになりました。
「肌色」だけでは曖昧だった色の定義が明確になり、消費者も目的に合った色を選びやすくなっています。
まとめ ~言葉の変化が示す、多様性を受け入れる時代の流れ~
「肌色」という呼び名が変わった背景には、時代とともに社会が進化し、多様性を尊重する価値観が広まったことがあります。
かつては当たり前だった「肌色=薄橙(うすだいだい)」という考え方も、世界にはさまざまな肌の色を持つ人々がいるという認識が広まるにつれて、より適切な表現が求められるようになりました。
色の名称が変わったことで、私たちはより自由に、自分の肌に合った色を選べるようになりました。特に子どもたちにとって、「肌色」という固定概念に縛られず、多様な肌の色を認識することは、世界をより広い視点で見るきっかけにもなります。
また、この変化は単なる「色の名前の変更」にとどまりません。ファッションや化粧品業界では、より幅広い肌色に対応した商品が生まれ、教育現場では「肌の色は一つではない」という意識が育まれています。
日常の些細なことのように思えるかもしれませんが、このような変化が積み重なり、より公平で多様性を受け入れる社会へとつながっていくのです。
色の名前が変わることに違和感を覚える人もいるかもしれません。しかし、それは「言葉の進化」のひとつであり、私たちの社会がより多くの人にとって住みやすくなっている証拠でもあります。
これからも、私たちは変化を受け入れながら、多様な価値観を尊重し合う社会を築いていきたいですね。