日本語には、同じ意味を持ちながらも、使用する場面や相手によってニュアンスが変わる言葉が多く存在します。「御礼」と「お礼」もその一つ。
どちらも感謝を伝えるための表現ですが、使い分けることで印象が大きく変わることがあります。
この記事では、「御礼」と「お礼」の意味の違いから、それぞれが適しているシーン、そして表現例までを幅広く紹介します。
言葉の使い方に自信を持ちたい方に、実用的な知識をお届けします。
使い分けの基本:「御礼」と「お礼」の違いとは?
「御礼」とは:かしこまった場面で使う敬意を込めた表現
「御礼」は、ビジネスや公的な行事など、改まった場面でよく使われる表現です。相手への敬意を強く示したい時に選ばれる傾向があります。
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ビジネス文書やメール
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式典や挨拶のスピーチ
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贈答品に添えるメッセージ
丁寧な印象を与えたい時にぴったりの言葉で、特に社会人としては正しいタイミングで使えるようにしておきたい表現です。
「お礼」とは:日常的で親しみのある感謝表現
一方、「お礼」は日常会話やカジュアルなやりとりに向いています。特に親しい人同士の間では、「御礼」よりもやわらかく自然な印象を与えます。
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家族や友人への感謝
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SNSやLINEなどの軽いやりとり
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職場の同僚との日常的な会話
気取らない場面では「お礼」のほうが馴染みやすく、相手にも親しみを感じてもらえます。
公的な書類で「お」と「御」をどう区別する?文化庁が示す指針
正式な文書で「お」と「御」のどちらを使うべきか迷った場合、文化庁が公式にルールを示しています。
これは、平成22年(2010年)11月30日に発表された「公用文における漢字使用等について」というガイドラインで明確にされており、次のようなルールが基本とされています。
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後に続く語が平仮名で書かれている場合は「お(ご)」
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続く語が漢字表記である場合は「御(ご)」
使用例:
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「れい」→「おれい」
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「礼」→「御礼」
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「あいさつ」→「ごあいさつ」
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「挨拶」→「御挨拶」
このように、文字の種類によって接頭語を使い分けるのが望ましいとされています。
ただし、このルールはあくまでも公的な文書での運用を前提としたものであり、日常的な文章や私信には必ずしも適用されるわけではありません。
文中では表記の統一を意識しよう!「お礼」と「御礼」の混在に注意
公文書以外の場面では、「お礼」も「御礼」も、どちらを使っても間違いではありません。
ただし、同じ文章の中で両者を混在させることは避けたほうがよいでしょう。
文章に統一感がないと、読み手にちょっとした違和感を与えてしまいます。これは、たとえるなら全角と半角が混ざった文書が読みづらいのと同じです。
どちらか一方に決めたら、文中では最後までその表記で統一する。これが、読みやすく丁寧な文章づくりの基本となります。
「御礼」の読み方は「おれい」?それとも「おんれい」?
「御礼」という語を読もうとしたとき、「おれい」と読むか「おんれい」と読むかで迷ったことはありませんか?
一般的には「おれい」と読むのが正解です。「おんれい」という読み方を耳にすることもありますが、実はこの読みは国語辞典には載っていないのです。
とはいえ、「満員御礼(まんいんおんれい)」のように、慣用的に「おんれい」と読まれるケースも存在します。こういった言葉は、言い回しとして定着しているため、完全に誤りとは言いきれません。
これは「新しい(あたらしい)」という言葉が、もともと「新たしい(あらたしい)」と読まれていたように、言葉の変化の一つとも捉えられます。
日本語は時代や人々の使い方によって少しずつ姿を変えていくもの。「おんれい」もその一例と考えると、言語の面白さが感じられるのではないでしょうか。
シチュエーション別の適切な使い方
改まった場では「御礼」を選ぶ
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お中元やお歳暮への返礼
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弔事関連の挨拶や手紙
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企業間のやりとりや式典での発言
カジュアルな場では「お礼」が自然
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友人へのプレゼントの返事
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家族への感謝の気持ち
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学校や部活での先生・仲間への気持ち
TPOに合わせて言葉を選ぶことで、印象がより良くなります。
ビジネスシーンでの表現の工夫
丁寧に伝えたいときの「御礼」の例文
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「このたびは格別のお引き立てを賜り、誠に御礼申し上げます。」
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「日頃のご支援に心より御礼を申し上げます。」
親しみを込めるなら「お礼」
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「先日は本当にありがとうございました。心からお礼申し上げます。」
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「ご協力いただき、とても助かりました!」
よく使われる文章例とシーン別フレーズ
手紙やメールでの定番表現
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「皆さまの温かいご配慮に、深く御礼申し上げます。」
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「このご縁に心からお礼を申し上げます。」
贈り物に添えるひと言
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「感謝の気持ちを込めて、ささやかな品をお届けいたします。」
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「ほんの気持ちですが、お受け取りいただけますと幸いです。」
挨拶文に使われる「御礼」の実例
葬儀など厳粛な場面
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「本日はご多忙の中ご参列いただき、厚く御礼申し上げます。」
企業間の挨拶
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「皆様のご支援により、ここまで事業を継続できましたこと、改めて御礼申し上げます。」
類語の意味と違い
用語 | 意味 | 適した場面 |
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感謝 | 一般的な感謝の気持ち | どの場面でも使える |
恩返し | 受けた恩に対する行動 | 長期的な支援への報い |
謝辞 | スピーチや挨拶などでの公式な感謝表現 | 式典・公的な発言や文章 |
のし袋に書く「御礼」「お礼」の使い方
のし表書きの選び方
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慶事:紅白の水引に「御礼」または「お礼」
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弔事:黒白の水引に「志」と書くのが一般的
ひと言メッセージの例
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「このたびは誠にありがとうございました。感謝の気持ちを込めてお贈りします。」
「御礼の辞」とは?
意味と使われる場面
「御礼の辞」は、フォーマルな場で感謝の意を述べる挨拶のことを指します。以下のような場面で用いられます。
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退職・異動時の挨拶
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式典・表彰式のスピーチ
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取引先や顧客への感謝のメッセージ
挨拶例
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「本日はご列席いただき、心より御礼申し上げます。」
英語で「御礼」「お礼」をどう表現する?
代表的な表現
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「御礼」:formal gratitude / sincere appreciation
例)I would like to express my sincere gratitude. -
「お礼」:thank you / thanks
例)Thank you so much for your help.
海外ビジネスでよく使う表現
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appreciation letter(感謝状)
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words of thanks(感謝の言葉)
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acknowledgment(正式な謝意)
状況に応じた英語表現を選ぶことで、国際的な場でも適切な印象を与えることができます。
まとめ
「御礼」と「お礼」、たった一文字の違いでも、使う場面や相手によってその印象は大きく変わります。今回ご紹介したように、言葉は単なる表現の手段ではなく、相手への敬意や心づかいを伝える大切なツールです。
だからこそ、TPOを意識した使い分けができることは、信頼や好印象にもつながります。ビジネスでもプライベートでも、自分の言葉選びに自信が持てるようになれば、人間関係もよりスムーズで気持ちの良いものになるでしょう。
形式やマナーにとらわれすぎる必要はありませんが、「伝わる言葉」を選ぶ力は、あなたの丁寧さや思いやりの表れです。
この記事が、そんな言葉づかいのヒントになれば幸いです。